2015/07/29

2015年度 日本パーソナリティ心理学会の嘘や欺瞞に関連する(かも)研究のタイトル・リスト

2015年8月22日から23日にかけて第24回日本パーソナリティ心理学会が開催されます。こちらの学会発表で嘘や欺瞞に関連する(かも)研究のタイトル・リストを作成いたしました。速報のプログラムを参照しているので、変更になる可能性があります。詳細情報はHPをご確認ください。

情報を削除して欲しい場合にはdeception.research.team[at]gmail.com(@に要変換)、またはTwitterアカウント(D_research_team)までご連絡ください。すぐに削除いたします。

嘘や欺瞞に関連するかも研究

8月22日(土)

【ポスター発表 10時00分~12時00分】
・Dark Triad と他者操作方略の関連-Dark Triad の「裏切り者戦略」仮説の検証-

2015/07/14

【研究紹介39】コルチゾールはホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)の協力と欺き行動・戦術的欺瞞の切り替えを調節する(Hormones and Behavior, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
 最近のほとんどがヒトを対象に実施された実証研究は、固体の生理状態が協力行動に影響を与えることを示している。つまり、固体の内的状態は協力するか欺くかどうかの意思決定に影響を与えている可能性が高い。しかし、協力行動に関連した生理的機序に関してはほとんど分かっていない。そこで、本研究ではコルチゾール水準の変化が野生のホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)における協力行動に与える影響を実証した。これらのベラは“お客さま”であるサンゴ礁に住む魚類がやって来ると皮膚上にいる寄生虫を取り除くといった協力行動をする。しかし、エネルギー需要的には“お客さま”の皮膚粘液を食べることを好み、この行動は欺き行動と言える。本研究では、成熟したホンソメワケベラのメスに(a)コルチゾール、(b)糖質コルチコイド受容体の拮抗薬であるミフェプリストン(RU486)か、(c)偽薬(生理食塩水)のうち一つを外部から投与し、その後45分間の掃除行動を観察した。コルチゾールを投与した効果は、ホンソメワケベラの欺き行動の存在を最初に報告した初期の観察研究と一致するものであった。具体的には、コルチゾールを投与されたベラは身体が小さい“お客さま”に対して胸ビレや腹ビレの掃除行動が増加していた。この行動は身体が大きい“お客さま”を惹きつける戦術的欺瞞であり、そうして寄ってきた“お客さま”の粘液を食べていた。また、糖質コルチコイド受容体を遮断されたベラでは、身体が大きい“お客さま”に対する戦術的欺瞞が増加していた。生殖行動といったエネルギー需要とコルチゾールの濃度レベルの変化がホンソメワケベラの行動パターンに影響を与えることから、コルチゾールは脊椎動物における協力行動に関連した一般的なメカニズムを担っている可能性が示唆された。

●文献情報
Soares, M. C., Cardoso, S. C., Grutter, A. S., Oliveira, R. F., & Bshary, R. (2014). Cortisol mediates cleaner wrasse switch from cooperation to cheating and tactical deception. Hormone and Behavior, 66, 346-350.

以下、ざっくり研究紹介。

  • 海のお掃除魚として知られているホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus)の欺き行動に関する研究です。私もお掃除魚として知っていましたが、こちらのお魚非常に興味深い生態を持っていることが明らかになりつつあります。
  • ちなみにどんな魚?と思うかたがいると思いますので、画像検索してみました。おきなわ図鑑様のサイトにこちらの写真が掲載されていたので転載させていただきました。


図1 ホンソメワケベラの写真


  • 動いている映像も探してみました。Youtubeからの転載です。




  • 普段はサンゴ礁の自分のテリトリー(cleaner stationというらしいです)にやってきた魚(お客さま)の皮膚上にいる寄生虫やエラにある食べ残しなどを食べてくれる掃除屋として知られています。
  • しかし、皮膚上の寄生虫よりもエネルギー価の高い“お客さま”の皮膚粘液を食べることを実は好んでいるそうです。そして、“お客さま”の身体に噛みついて皮膚粘液を食べるホンソメワケベラがいることが実際に観察されています。




  • この行動は掃除をすると見せかけて皮膚粘液に噛みつくことから欺き行動と考えられています。
  • もう一つの欺き行動として、“お客さま”の身体の大きさに合わせて協力行動と欺き行動を使い分けるといった戦術的欺瞞行動があります。これは身体が小さい“お客さま”に対しては誠実に掃除を行い、それを見ている周りのお客さまにアピールする行動です。そして、身体の大きな“お客さま”がやってきたときに、しめしめと噛みつき行動をします。
  • 著者たちはこのような協力行動と欺き行動・戦術的欺瞞行動の生理的基盤を明らかにするために糖質コルチコイドの一種であるコルチゾールに着目しました。欺き行動はメスのみ見られ、生殖活動が盛んなときに観察されます。生殖活動が盛んな時期には一般的にコルチゾール濃度が高まるそうです。
  • 実験は実際のサンゴ礁で行われています!ホンソメワケベラが生息するサンゴ礁に実際にダイビングして、以下の3条件の処遇を行いました。(a)コルチゾールの投与、(b)糖質コルチコイド受容体の拮抗薬であるミフェプリストン(RU486)の投与か、(c)偽薬(生理食塩水)の投与です。
  • その結果、観察研究で見られていたように、生理食塩水を投与された群より、コルチゾールを投与されたホンソメワケベラは身体が小さい“お客さま”に戦術的欺瞞行動を示すようになっていました。そして、身体の大きい“お客さま”に欺瞞行動である粘膜の噛みつきを行うようになっていました。
  • また、生理食塩水を投与された群より、ミフェプリストンを投与されたホンソメワケベラは身体が大きい“お客さま”に戦術的欺瞞行動を示すようになっていました。身体の大きな“お客さま”の方が皮膚上にいる寄生虫も多いため、ホンソメワケベラにとって価値のある顧客と言えるようです。そのため、より良い掃除を提供することで今後も利用してもらえるためには協力行動を示した方がよいことになります。その行動にもコルチゾールの分泌が関与しているのだろうと考察しています。
  • 以上の結果から、ホンソメワケベラの協力行動と欺瞞行動の切り替えを行う生理的基盤はコルチゾールである可能性が示唆されました。
  • ちなみにホンソメワケベラは他にも興味深い生態があります。ホンソメワケベラはオス1匹に対して複数のメスがいるハーレムを形成していますが、何らかの理由でオスがいなくなった場合にはハーレムの中で身体の大きなメスが性転換してオスになるそうです。
  • また、ホンソメワケベラに擬態した魚にニセクロスジギンポがいます。こちらはやってきた魚の掃除をするのではなく、最初から粘膜や鱗を食いちぎって逃げていくそうです。写真を検索したところ、いずずきダイバー様のサイトに掲載されていたので、転載させていただきました。何とも欺瞞に関連の深いお魚といえます。


図2 ニセクロスジギンポの写真

2015/07/08

2015年度 日本心理学会の嘘や欺瞞に関連する(かも)研究のタイトル・リスト

2015年9月22日から24日にかけて第79回日本心理学会が開催されます。こちらの学会発表で嘘や欺瞞に関連する(かも)研究のタイトル・リストを作成いたしました。速報のプログラムを参照しているので、変更になる可能性があります。詳細情報はHPをご確認ください。

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嘘や欺瞞に関連する研究

9月22日(火) 

【ポスター発表 9時20分~11時20分】
・虚偽検出検査に関する基礎的研究:眼球運動測定に及ぼす刺激呈示時間の影響(2)

【ポスター発表 15時30分~17時30分】
・その笑顔は偽物です―信号検出理論を用いた笑顔の判断バイアスの検討
・隠匿情報検査における刺激有意性の特性(2)
・真は偽よりも好ましい

9月23日(水)

【国際賞講演 13時10分~14時10分】
・正直さと不正直さを支える脳のメカニズム

9月24日(木)

【ポスター発表 9時20分~11時20分】
・認知的負荷が嘘の表出に及ぼす影響 アイコンタクトによる偽装のサインの表出


【ポスター発表 13時10分~15時10分】
・飼い主が“あざむき”だと感じたイヌとネコの行動―ネコババするネコ・演技するイヌ

【自主シンポジウム 13時10分~15時10分】
・「隠す」心理を科学する―動物の「あざむき」行動
  話題1:ヒト以外の霊長類におけるあざむき行動
  話題2:だますイヌ、だまされるイヌ
  話題3:魚は隠すし「ふり」して相手も騙す:魚・鳥の騙しを考える
  ※欺瞞的コミュニケーション研究会企画!!

嘘や欺瞞に関連するかも研究

9月22日(火)

【ポスター発表 9時20分~11時20分】
・「運命の出会い」の感じやすさと占いの信じやすさの関連
・フェイク・データに関する基礎研究Ⅱ

【ポスター発表 13時10分~15時10分】
・人はみかけによる―ダークパーソナリティは外見的にも良い印象を持たれない
・高齢者の詐欺被害における相談行動抑制の心理的要因―相談しない傾向の検証―
・評議前後で目撃証言の信用性判断は変化するか?
・捜査面接における警察官のラポール形成戦略(1)
・フォルスメモリーにおけるソースモニタリング―DRMパラダイムによるリストソース
・仮想場面における対人交渉戦略に信頼感が及ぼす影響―信頼感の高・低群の比較検討―

【ポスター発表 15時30分~17時30分】
・カテゴリーの違いによる信頼の構成要素の異同
・サイコパシー2因子と囚人のジレンマの搾取行動
・事情聴取における発問方法の効果(6)

9月23日(水)

【ポスター発表 9時20分~11時20分】
・“伊達マスク”の実態と着用要因
・誠意か甲斐性か、それが問題だ
・Taxon分離による高齢者の特殊詐欺脆弱性の検討

【ポスター発表 13時10分~15時10分】
・目と眉の形から読み取った性格がストーリーの信ぴょう性に影響を与える?
・リアリティ・モニタリング・エラーと視覚イメージングスタイルとの関連性についての検討

9月24日(木)

【ポスター発表 9時20分~11時20分】
・他者意識が作り笑い反応に及ぼす影響
・重要他者における愛着が恋愛の欺瞞場面に及ぼす緩和効果―欺瞞エピソード刺激文の人称形式による違い

【ポスター発表 13時10分~15時10分】

・予報を信頼するか否かは的中率によらない

【ポスター発表 15時30分~17時30分】
・向社会行動が「偽善」と判断される時―推測された動機が及ぼす影響―
・協力者と裏切り者の記憶における年齢関連差―ポジティビティ効果と外見バイアスの証拠
・組織における不正行為と組織風土

2015/07/01

電話勧誘による詐欺に対する感受性尺度の紹介

先日、マーキュリー2世さん(@uranus_2)のツイートを拝見していたところ、電話勧誘による詐欺に対する感受性尺度を使用した研究が紹介されていました。研究は2つあります。どちらも縦断的研究です。




尺度の最初の出典がうまく見つけられなかったのですが、アメリカのAARPといった団体で高齢者が電話勧誘による詐欺にひっかかりやすいかどうかを測定する以下の尺度が使用されているそうです。5項目で簡単に回答できるので、紹介いたします。訳に自信がないので、英語も付記しておきます。


【電話勧誘による詐欺に対する感受性尺度】


  1. 誰が電話をかけてきたか分からなくても、私は毎回電話をとる(I answer the phone whenever it rings, even if I do not know who is calling)。
  2. 電話をかけてきた人が、電話で投資等の勧誘をする人、知らない人や、電話で話をしたくない人であっても、私は電話をすぐに切ることができない(I have difficulity ending a phone call, even if the caller is a telemarketer, someone I do not know, or someone I did not wish to call me)。
  3. あまりに話が良すぎて信じられないことだとしても、たいてい信じてしまう(If something sounds too good to be true, it usually is)。
  4. 65歳以上の人はよく詐欺師の標的にされる(Persons over the age of 65 are often targeted by con-artists)。
  5. 投資等の勧誘をする人が電話をかけてきた場合には、たいてい私は最初から最後まで話を聞いてしまう(If a telemarketer call s me, I usually listen to what they have to say)。
※項目3の訳に誤りがありました...。申し訳ありません。以前は「それは普通のことである」と訳していましたが、赤字の方が正しいと思われます。@myuukoさんのご指摘です。ありがとうございます!

  • こちらの尺度でおもしろいのは電話を受けたときの行動に焦点を当てているところです。確かに怪しい電話でもすぐに切れないとリスクになるなあと思いました。
  • 上記1から5の項目について「1:非常にそう思う~7:まったくそう思わない」で回答してください。項目1、2と5は逆転項目なので値を反転する必要があります。たとえば、項目1で「1:非常にそう思う」を選択した場合、計算するときは「7:まったくそう思わない」に反転する感じです。最終的に5項目の平均値を算出するようです。
  • なんかよくわからない人は、次の式で計算してみてください。
「((8-項目1)+(8-項目2)+項目3+項目4+(8-項目5))/ 5」
  • 値が大きいほど詐欺に対する感受性が強く、騙されにくいようです。ちなみに、一つ目の研究では639人の高齢者(平均年齢82.4歳、標準偏差7.6歳)の平均値は2.88、標準偏差0.70となっていました。尺度得点が正規分布すると仮定すると(仮定してよいのかは置いておいて。。。)、図1みたいな感じになります。1.48は騙されやすい方に2標準偏差動かした値です。

図1 正規分布を仮定した尺度得点
注1)研究1の平均値と標準偏差から算出
注2)実際に正規分布しているかは不明
  • おれおれ詐欺(母さん助けて詐欺)、振り込め詐欺、上京型詐欺等、電話にかかわる詐欺が大きな社会問題になっていますので、何かの振り返りに使用できるかもしれないと思って紹介させていただきました。