2014/10/10

【研究紹介24】嘘つきを見習う:大人の嘘行動が子供の誠実性に与える影響(Developmental Science, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
先行研究によると、ほとんどの大人が子どもに嘘をついたことがあることを認めている。また、社会的学習理論によると、子どもはモデリングと模倣を通して学習することが示されている。これまでの先行研究では、子どもに嘘をつくことが子どもの誠実性に与える影響について検討した研究は見当たらない。そこで、次のような課題を用いて、大人の嘘が幼稚園児や小学生の行動に与える影響について検討した。この課題は「魅力的なおもちゃ課題」を修正したものであり、魅力的なおもちゃを見ないように実験者から指示された後でしばらく一人にされ、実験者が戻ってきた後におもちゃを見たことを認めるか、見ていないと嘘をつくことができる課題であった。実験を始める前に、参加者の子どもの半分には実験者から嘘をつかれていた。またおもちゃを見たか確認する前に、本当のことを言うように子どもと約束をしていた。一連の課題を踏まえて、子どもがおもちゃをみたか、嘘をついたかを測定した。本研究の仮説は、嘘をつかれた子どもは、おもちゃを見る行動と、嘘をつく傾向が強くなることだった。その結果、嘘をつかれた小学生の子どもはおもちゃを見る行動がより生起し、嘘をつく傾向が強くなった。その一方、幼稚園児には大人の嘘の効果が見られなかった。これらの結果は子どものしつけや教育に対して重要な意義を持っていると考えられる。

●文献情報
Hays C., & Carver, L. J. (in press). Follow the liar: the effects of adult lies on children’s honesty. Developmental Science.


以下、ざっくり内容紹介

  • 大人が子どもに嘘をつくことが、子どもの嘘行動に与える影響を検討した研究です。
  • 著者たちはBandula先生の社会的学習理論の観点から、大人から嘘をつかれた経験をモデリングしたり、模倣したりすることによって、子どもは嘘をつくようになるといった仮説を立てています。
  • 実験の結果、小学生1年生くらいの年齢の子どもは大人から嘘をつかれると約束を破りやすくなり、相手に嘘をつきやすくなることが示されました。ただし、幼稚園くらいの年齢の子どもにはこの効果が見られていません(図1)。


図1 条件別の嘘行動の割合
※論文から読み取ったため値は正確ではありません。


  • 幼稚園児に嘘の効果が見られなかった可能性としては、そもそも嘘をつかれたことを理解できなかった可能性や、つかれた嘘を「悪い嘘」として認識していなかった可能性などが論じられていました。
  • 実験課題は子どもの嘘行動を検討する際によく使用される「魅力的なおもちゃ課題」です。実験室に魅力的なおもちゃを置いておいて、実験者がちょっと席をはずす状況を設定し、子供にはおもちゃを見ないように指示して部屋で一人にします。一人でいる間におもちゃを見たかの記録をとっておいて、実験者が戻ってきたときにおもちゃを見たか尋ねます。測度として使用されるのは、実際におもちゃを見たか、実験者の質問に嘘をつくかです。
  • 今回の実験ではこの課題を行う前に実験者から嘘をつかれる条件と、つかれない条件を設定していました。嘘の内容は部屋に入る前に「この部屋の中にはいっぱいキャンディーがあるよ。欲しい?」と子どもに尋ねます。欲しいと答えても実際にはキャンディーはありません。部屋に入った後に「実はキャンディーはないんだ。この部屋で一緒にゲームをしたいと思って、さっきみたいなことを言ったんだ」というような嘘です。
  • また、魅力的なおもちゃ課題を行って嘘をつくかどうかを確認する前に、本当のことを言うように約束させています。これは先行研究で本当のことを言うように約束すると、子どもが嘘をつく割合がかなり低下することが示されているためでした。たとえば、下記の文献で宣誓の効果が検討されています。


虐待された幼児に対する真実の誘発:真実と嘘をいうことに対する宣誓と安心の効果(Child Abuse & Neglect, 2008)


  • 研究の限界(たとえば嘘をついた大人は実験者なので、親の場合はどうか)が論じられる一方、子どもの行動をコントロールするために嘘を利用することに対する警鐘がなされていました。