2014/10/30

【研究紹介27】女性には笑顔でコミュニケーションした方がよい:文化によらず性別は人の笑顔の誠実性の知覚を修飾する(International Journal of Psychology, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
社会的認知研究によると、真顔の人よりも笑顔の人はさまざまなコミュニケーション特性についてより好意的に認知されることが示されている。また、習慣的な笑いに関する性差の研究によると、女性は男性よりも日常的に笑顔を見せることが示されている。そこで、本研究では男性よりも女性は笑顔の人をより誠実な人として認知するといった仮説について検証を行った。本研究は不確実性の回避(uncertainty avoidance)の程度が異なる7か国で実施した。参加者(女性・男性)は笑顔と真顔の人の写真を見て、その人の誠実性を評価した。真顔の人の誠実性に関して性差は見られなかったが、笑顔の人の誠実性に関して男性よりも女性は高く評価していた。したがって、性別は笑顔の人の誠実性の認知に影響を与えることが示唆され、社会規範の観点から考察を行った。

●文献情報
Krys, K., Hansen, K., Xing, C., Espinosa, A. D., Szarota, P., & Morales, M. F. (in press). It is better to smile to women: Gender modifies perception of honesty of smiling individuals across culture. International Journal of Psychology.

以下、ざっくり内容紹介

  • 笑顔の人の誠実性の評価に性差があることを示した研究です。実験は7か国(中国・ドイツ・メキシコ・ノルウェー・ポーランド・南アフリカ共和国・アメリカ)で実施して、文化差についても検討しています。明確な文化差は確認されていませんが、ドイツ・メキシコ・ノルウェー・ポーランドの男性参加者は、誠実性に対する笑顔の効果が見られませんでした。
  • 先行研究から笑顔は誠実性のシグナルであり、笑顔の人は誠実性や社会性などのコミュニケーション特性についてより好意的に認知されることが示されています。また、男性よりも女性は笑顔の表出が多く、非言語的手がかりの解読能力が優れていることが示されています。




  • 以上のような知見から、今回の研究では男性よりも女性は笑顔を表出している人の誠実性を高く評価するだろうといった仮説を検証しています。
  • 実験は非常に単純です。笑顔の人と真顔の人の写真を見せて、誠実性に関する4つの特性(honesty, authentic, unnatural, and false)を7件法(1:特性はまったくあてはまらない~7:特性が完全にあてはまる)で評価させていました。
  • 実験計画はやや複雑です。「写真の表情(笑顔・真顔)」×「写真の人の性別(男性・女性)」×「参加者の文化(7か国)」×「参加者の性別(男性・女性)」の4要因でした。前2つが参加者内、後ろ2つが参加者間要因でした。
  • 4要因の分散分析の結果、「写真の表情」「参加者の文化」「参加者の性別」の主効果が有意でした。細かい結果は本文をご覧ください。なぜか「参加者の文化」だけ下位検定されていませんでした…。
  • 「写真の表情」×「参加者の性別」の交互作用が有意でした。男性、女性の参加者の両方が真顔よりも笑顔の人の誠実性を高く評価していました。また、真顔の人の誠実性の評価に差が見られなかった一方、笑顔の人に対して男性よりも女性は誠実性を高く評価していました(図1)。


図1 参加者の性別・写真の表情別の誠実性の評価

  • 「写真の表情」×「写真の人の性別」の交互作用も有意でした。笑顔の人は男性と女性ともに誠実性が高く評価されていましたが、真顔の人は男性よりも女性の誠実性が高く評価される傾向が見られました(図2)。


図2 写真の人の性別・写真の表情別の誠実性の評価


  • 「参加者の文化」×「参加者の性別」の交互作用も有意でした。上述したように、特定の国の男性には誠実性に対する笑顔の効果が見られませんでした。
  • 図1と図2を見ると笑顔の効果はそんなに大きくなく見えますが、論文の表1に掲載されている効果量を見ると参加者が女性のときはd = .52~.74、男性のときはd = -.00~.49となっており、中程度くらいの効果は見られるようです。
  • 真顔において女性の誠実性が高く評価される傾向について社会規範の観点から考察されています。以上の結果から、女性には笑顔で接した方がよいようです。


2014/10/24

【研究紹介26】行為の悪さが重要?真実と嘘に対する子どもの初期の理解に行為の悪さが与える影響(Journal of Experimental Child Psychology, 2012)

Abstract(ざっくり和訳)
小さい頃に子どもがつく嘘には悪い行動が含まれることが多い(黙ってお菓子を食べたときに「食べてない」と嘘をつくなど)。そのため、子どもは悪いこと以外をしたときにつく嘘よりも、悪いことをしたときにつく嘘を“嘘”として認識しやすいことが主張されてきた。ただし、この仮説はこれまで直接検討されていない。そこで、本研究ではこの仮説について検証を行った。実験1では、3から5歳の子ども67人が、登場人物が良いことか悪いことをした後に、本当か嘘のことを話す物語を見た。その結果、子どもの真偽判断にはバイアスが見られ、良い行動をした登場人物は真実を話しており、悪い行動した登場人物は嘘をついていると考えられていた。実験2では、4から6歳の子ども51人が、登場人物が良いことか悪いことをしたかについて、その行為を認めるか否定する物語を見た。その結果、登場人物が良いことをしていた場合、子どもは真実と嘘を判別しやすかった。これらの結果から、幼児は悪い行為全般を嘘として認識し、良い行為全般を真実として認識しやすいとった過般化(overgeneralization)を行っていると考えられる。そして、発達するとともに徐々に行為の“良し悪し”と“誠実性”の区別を行うことが可能になることを示唆している。したがって、幼い頃の子どもに嘘の意味を理解しているかを検証するためのシナリオに“悪い”行為が含まれていることは、子どもの真偽判断の能力を過小評価している可能性がある。

●文献情報
Wandrey, L., Quas, J. A., & Lyon, T. D. (2012). Does valence matter? Effects of negativity on children’s early understanding of the truth and lies. Journal of Experimental Child Psychology, 113(2), pp.295-303.

以下、ざっくり内容紹介
  • 子どもの嘘と真実の理解について研究しています。Piaget先生のころから研究が始まっているそうですが、司法場面における子ども証言の有効性を検証するためにも重要な研究領域になっているようです。
  • 今回の研究では、子どもが主張の真偽に関わらず、行為の“良し悪し(valence)”にひっぱられて真偽判断をしている可能性について検証しています。先行研究から子どもは悪い行為を“嘘”として認識しやすい可能性が示されていましたが、この点についてしっかりと研究されていませんでした。
  • ちなみ、子どもが幼い頃につきはじめる嘘は、悪いことをしたときの否認だそうです。




  • 実験1では、子どもに登場人物が良い行為か悪い行為をした後に、本当か嘘を言うシナリオを読ませています。このシナリオが若干複雑です。全部で6種類のシナリオが用意されていました(表1)。他の可能性をつぶすためだと思いますが、現実的にはあまりメリットのないもの(悪い行為→嘘:別の悪い行為、良い行為→嘘:悪い行為、良い行為→嘘:別の良い行為)がありました。

表1 実験1のシナリオの構成



  • また、真偽判断をするときの質問法を変えています。子どもに真偽を尋ねるときに「本当だと思うか?」か「嘘だと思うか?」で質問して、はい・いいえで回答させています。
  • 結果としては、3・4歳児よりも5歳児の正答率が高くなっていました(図1)。また、シナリオによる違いも見られ、“良い行為→真実:良い行為”“良い行為→嘘:悪い行為”“悪い行為→真実:悪い行為”の正答率はチャンス・レベルよりも高くなっていました(図2)。


図1 年齢別の正答率



図2 シナリオ別の正答率
※論文から読み取ったために値は正確ではありません。


  • また、年齢ごとに細かく分析してみると5歳児は“良い行為→嘘:別の良い行為”以外は全てチャンス・レベルよりも正答率が高く、4歳児は“良い行為→真実:良い行為”のみチャンス・レベルよりも正答率が高く、3歳児は全てのシナリオでチャンス・レベルよりも正答率が低くなっていました。
  • 実験2では、実験1のシナリオが複雑だったことから、より単純にしたものを用いて子どもが嘘=悪い行為と認識しやすいかについて検討しています。
  • 実験2のシナリオでは2人の登場人物が良い行為か悪い行為をした後に、どちらか一方は真実を言い、どちらか一方は嘘を言う内容になっていました。子どもには「本当のこと言っている子はどちら?」か「嘘を言っている子はどちら?」で質問して、はい・いいえで回答させています。
  • 結果としては、年齢が上がるにつれて正答率が高くなっていました(図3)。また、登場人物が悪い行為よりも良い行為をしていたときに正答率が高くなっていました(図4)。


図3 年齢別の正答率



図4 行為の良し悪し別の正答率

  • さらに子どもの性別と行為の良し悪しに交互作用が見られています(図5)。女児は登場人物が悪い行為をしたときの正答率ががくっと落ちていました。そして、子どもの年齢と質問の仕方にも交互作用が見られています(図6)。4.5~5.5歳時のときには「本当のことを言っている子はどちら?」と聞いた方が正答率が高くなっていましたが、5.5歳~6歳児になるとどちらの質問でも同じくらいの正答率になっていました。


図5 子供の性別・行為の良し悪し別の正答率



図6 子供の年齢・質問法別の正答率


  • 上記のような結果から、著者たちは子どもが悪い行為=嘘と認識しやすいバイアスがあると主張しています。そのため、子どもの嘘・真実の理解を検証するためには悪い行為が含まれないシナリオを用いることを推奨していました。
  • 性差や質問法に関する考察は一切されておりません。この結果がけっこうおもしろいと思うのですが…(感想)。


2014/10/20

【研究紹介25】左胸に手を当てると誠実に見えるし、誠実になる(Cognitive Processing, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
特定の動作は思考の内容やプロセスに影響を与えることが報告されている。本研究では、心臓の上(左胸)に手をおく動作が誠実性の認知と関連があることが示された。実験1において、両手をおろした人の写真よりも、左胸に手をおく動作をした人の写真はライ・スケールで使用される内容に関する記述の信頼性を高く評価されていた。実験2において、両手をおろした人よりも、自身の左胸に手を置く動作をした人は自分に知識がないことを潔く認めていた。これらの結果から、自身の左胸に手を置く動作などの誠実性の抽象的な概念に関連する身体経験は、他者に対する認知や自身の行動の両方に影響を与えるといった先行研究の主張を再現し、拡張するものであった。

●文献情報
Parzuchowski, M., Szymkow, A., Baryla, W. & Wojciszke, B. (2014). From the heart: Hand over heart as an embodiment of honesty. Cognitive Processing, 15(3), pp.237-244.

以下、ざっくり内容紹介

  • 身体化された認知に関する研究です。この研究では心臓の上(左胸)に手をおく動作が誠実性を高めることを示しています。もっと細かい検討は他のジャーナルで行っています。



  • この研究の興味深いところは、他者が左胸に手をおく動作をしているのを見ると、その人の誠実性の評価が高まることを示しています(研究1)。
  • おもしろい身体化された認知の先行研究が紹介されていました。中指を立てながら曖昧な印象に記述された人の文章を読むと、その人が敵意を持っていると評価するようです。



  • 左胸に手をおく動作は、イギリス英語・ドイツ語・ポーランド語・ロシア語などで誠実性と関連性が深いそうです。そのため、今回の研究ではこの動作着目しています。
  • 研究1では左胸に手を置いている人の写真と、同じ人で両手をおろしている人の写真を見て、その人のことを記述した12個の文を読んでいます。最初の4つは名前や年齢など疑いようのない文章でした。そして、残りの8つは社会的望ましさ尺度で使用されているような理想的すぎる文章でした。
  • 参加者は各文について7件法(1:まったく信頼できない~7:非常に信頼できる)で評価しています。8つの疑わしい文章に対する評価の平均値を条件間で比較しました(図1)


図1 動作別のうそっぽい文章に対する信頼性の評価


  • その結果、有意な差が見られ、左胸に手を当てた写真の方が誠実性を高く評価されています。効果量はd = .57なのでCohenの基準によると中程度の大きさです。ただし、平均値は中点(4)近くなので、誠実性の評価を大きく高めるというわけではなさそうです。
  • 研究2では実際に左胸に手を当てたときと、左のお尻に手を当てたときの誠実性について検討しています。この実験では、どちらかの動作をしながら心理学者の名前とその人が提唱している理論を知っているかどうか(熟知性)について評価しています。
  • この理論は本当にあるものを3つ、それっぽい理論を作った嘘の理論を8つ用意していました。参加者は7件法(1:絶対知らない~4:分からない~7:絶対に知っている)で各理論について評価しています(図2)。


図2 動作・理論の真偽別の熟知性の評価


  • 動作(左胸・お尻)×理論の真偽(本当・嘘)を要因とした分散分析を行ったところ、理論の真偽の主効果が見られました。嘘の理論よりも、本当の理論の方が熟知性を高く評価していました。
  • また、動作と理論の真偽に交互作用が見られ、本当の理論の評価に動作の影響は見られないが、嘘の理論を評価しているときには動作の影響が見られていました。つまり、嘘の理論を評価しており、左胸に手を当てているときは熟知性の評価が低くなっていました。
  • こちらの結果も少し注意が必要です。嘘の理論の平均値は中点(4)以下なので、知らないと回答していた人が多いと思われます。また、今回の評定尺度では中点をわからないにしていることが少し問題な気がします。知らない理論に対して、絶対に知らない(1)と答えることも誠実ですし、分からない(4)と答えることも誠実だからです。
  • 以上の結果から左胸に手を当てるといった動作が誠実性に影響を与えることが示されました。著者達もやんわり指摘していますが、文化による影響が大きそうですね。日本の場合はサッカー選手などが国家斉唱しているときに胸に手を当てていますが、あまり見られない行動のような気がします。
  • 日本だとお辞儀などがこの動作にあたるでしょうか。お辞儀と誠実性の研究をしてみてもおもしろそうです(感想)。


2014/10/10

【研究紹介24】嘘つきを見習う:大人の嘘行動が子供の誠実性に与える影響(Developmental Science, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
先行研究によると、ほとんどの大人が子どもに嘘をついたことがあることを認めている。また、社会的学習理論によると、子どもはモデリングと模倣を通して学習することが示されている。これまでの先行研究では、子どもに嘘をつくことが子どもの誠実性に与える影響について検討した研究は見当たらない。そこで、次のような課題を用いて、大人の嘘が幼稚園児や小学生の行動に与える影響について検討した。この課題は「魅力的なおもちゃ課題」を修正したものであり、魅力的なおもちゃを見ないように実験者から指示された後でしばらく一人にされ、実験者が戻ってきた後におもちゃを見たことを認めるか、見ていないと嘘をつくことができる課題であった。実験を始める前に、参加者の子どもの半分には実験者から嘘をつかれていた。またおもちゃを見たか確認する前に、本当のことを言うように子どもと約束をしていた。一連の課題を踏まえて、子どもがおもちゃをみたか、嘘をついたかを測定した。本研究の仮説は、嘘をつかれた子どもは、おもちゃを見る行動と、嘘をつく傾向が強くなることだった。その結果、嘘をつかれた小学生の子どもはおもちゃを見る行動がより生起し、嘘をつく傾向が強くなった。その一方、幼稚園児には大人の嘘の効果が見られなかった。これらの結果は子どものしつけや教育に対して重要な意義を持っていると考えられる。

●文献情報
Hays C., & Carver, L. J. (in press). Follow the liar: the effects of adult lies on children’s honesty. Developmental Science.


以下、ざっくり内容紹介

  • 大人が子どもに嘘をつくことが、子どもの嘘行動に与える影響を検討した研究です。
  • 著者たちはBandula先生の社会的学習理論の観点から、大人から嘘をつかれた経験をモデリングしたり、模倣したりすることによって、子どもは嘘をつくようになるといった仮説を立てています。
  • 実験の結果、小学生1年生くらいの年齢の子どもは大人から嘘をつかれると約束を破りやすくなり、相手に嘘をつきやすくなることが示されました。ただし、幼稚園くらいの年齢の子どもにはこの効果が見られていません(図1)。


図1 条件別の嘘行動の割合
※論文から読み取ったため値は正確ではありません。


  • 幼稚園児に嘘の効果が見られなかった可能性としては、そもそも嘘をつかれたことを理解できなかった可能性や、つかれた嘘を「悪い嘘」として認識していなかった可能性などが論じられていました。
  • 実験課題は子どもの嘘行動を検討する際によく使用される「魅力的なおもちゃ課題」です。実験室に魅力的なおもちゃを置いておいて、実験者がちょっと席をはずす状況を設定し、子供にはおもちゃを見ないように指示して部屋で一人にします。一人でいる間におもちゃを見たかの記録をとっておいて、実験者が戻ってきたときにおもちゃを見たか尋ねます。測度として使用されるのは、実際におもちゃを見たか、実験者の質問に嘘をつくかです。
  • 今回の実験ではこの課題を行う前に実験者から嘘をつかれる条件と、つかれない条件を設定していました。嘘の内容は部屋に入る前に「この部屋の中にはいっぱいキャンディーがあるよ。欲しい?」と子どもに尋ねます。欲しいと答えても実際にはキャンディーはありません。部屋に入った後に「実はキャンディーはないんだ。この部屋で一緒にゲームをしたいと思って、さっきみたいなことを言ったんだ」というような嘘です。
  • また、魅力的なおもちゃ課題を行って嘘をつくかどうかを確認する前に、本当のことを言うように約束させています。これは先行研究で本当のことを言うように約束すると、子どもが嘘をつく割合がかなり低下することが示されているためでした。たとえば、下記の文献で宣誓の効果が検討されています。


虐待された幼児に対する真実の誘発:真実と嘘をいうことに対する宣誓と安心の効果(Child Abuse & Neglect, 2008)


  • 研究の限界(たとえば嘘をついた大人は実験者なので、親の場合はどうか)が論じられる一方、子どもの行動をコントロールするために嘘を利用することに対する警鐘がなされていました。


2014/10/03

【研究紹介23】医療現場でプラセボ処方が受容される、受容されない状況と理由:患者の立場からの質的研究(PLoS ONE, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)

背景
医者に対する調査研究では、患者の症状を良くするためにプラセボ的処方を利用していることが示唆されている。しかしながら、患者の立場からのプラセボ的処方はあまり検討されてこなかった。そのため、プライマリー・ケアの医療現場において患者がプラセボ的処方を受容する状況とその理由、また受容しない状況とその理由を確認することを目的とした質的研究を行った。

方法
本研究を遂行する上で適切な英語話者である58人の成人(男性18人、年齢は19-80歳)が11のフォーカス・グループに参加した。医療現場においてプラセボ的処方を行う医者の仮想シナリオが議論の呼び水として使用された。得られたデータは全て文章に書き下され、質的研究方法に基づいて帰納的に分析された。

結果
参加者は、患者、世話人、医療を提供する人、社会的な観点から、プラセボ的処方のさまざまな害と利益について議論した。その結果、プラセボ的処方に対して大きく2つの立場が確認された。一つは、プラセボ的処方によって得られるかもしれない利益に着目する「結果主義」的な立場である。ある参加者はプラセボ的処方が有益であり、医療現場で使用した方がよいと考えていた。また、プラセボ的処方が心理や身体の相互作用に影響を与えることを想定していた。その一方で、プラセボ的処方には効果がなく、時間やお金の無駄であると考える参加者もいた。二つ目は、プラセボ的処方を行うときには患者に嘘をつくことになり、患者の不利益を強調する「自律性を尊重するべき」立場である。この立場の参加者は、プラセボ的処方には嘘が含まれ、それを利用する医者が信頼できず、患者の自律性が担保できないために、受容できないと考えていた。また、プラセボに影響されやすい人をだまされやすい人と考える傾向にあり、自身がプラセボにかからないように努力していた。全体として、「プラセボ」という用語は「効果がない」ことを意味する言葉として考えられていた。さらに、ある参加者は患者に嘘をつかずに、慎重に言葉を選べばプラセボ的処方を行ってもよいと考えることが示唆された。

結論
プラセボは効果がなく、医者が嘘をつくことになるといった信念によって、プラセボは否定的に捉えられることが示された。プラセボが有効に働く場合にはメカニズムや嘘などの関連するプロセスは重要でないといった実用主義的な観点から、プラセボは肯定的に捉えられることが示された。プラセボやその効果に関する公的な教育や、臨床的実践におけるプラセボ的処方の最適解を求める研究が必要となるだろう。

●文献情報
Bishop, F. L., Aizlewood, L., & Adams, A. E. M. (2014). When and why placebo-prescribing is acceptable and unacceptable: A focus group study of patient’s views. PLos ONE, 9(7), e101822.

以下、ざっくり内容紹介

  • 医療現場におけるプラセボ的処方を積極的に有効活用できないかを検討した研究です。活用するにあたって、患者がプラセボ的対処をどのように考えるか質的研究で検討しています。
  • 著者たちをファシリテーターとするグループ討議を行っています。議論の呼び水として、4つの仮想シナリオを提示していました。シナリオは①風邪だと思われる患者に説明なしにプラセボ的処方(強壮剤を薬として処方)を行う、②風邪だと思われる患者に説明をした上で医療的な処方は行わない(強壮剤を処方)、③末期がん患者にがんの薬としてプラセボ薬を与える、④新しく開発された風邪薬の効果を検討するために二重盲検法を用いた研究の参加者になってもらうでした。
  • プラセボ的処方には症状が改善するといった利益も患者の自律性が阻害されるといった害もあるといった指摘があり、患者の個人差(効きやすさ)や医者との信頼関係も大事などの議論がありました。
  • 興味深い結果として、子どもが患者の場合にはプラセボ的処方を行ってもよいと全ての参加者が考えていました。この場合には自律性が尊重されないことよりも、プラセボ的対処による利益の方が優先されていました。
  • 医者と患者が「プラセボ」という言葉に持つイメージや内容に乖離が見られる可能性があり、その点を整理していく必要があることが指摘されていました。